君の幸せ、僕のため



 閣議が終わって、ばらばらと動き出す人影。
 その中で、真っ先に部屋を飛び出した人物。
 ここ最近の不機嫌っぷりに敢えて声をかけることができる者はいない。
 唯一どんな機嫌の時でも勝手気ままに呼びつけることができた人物も、今は完全に無視状態で、仲良しの蔵相となにやら相談事に夢中だ。


 第3次伊藤内閣。
 自由党との連携は失敗に終わりそうで、ついでに閣内一致団結とも言い難い。
 末松は、話しかけてくる人々をさらりさらりとかわして、急ぎ足にこちらも部屋を出た。



 末松は、巳代治が好きだ。
 巳代治がどうこうとかじゃなくて、愛してあげるべき対象として、当り前のように好きだ。



「ミヨちゃん」
 
 振り返った巳代治の視線は冷ややかだったが、歩みを止めて、末松を待った。

「何です?」

 巳代治をここまで不機嫌に扱いにくくしてくれる伊藤には、はっきり言って(むしろこっちに対して)少し苛立ちさえ覚える。
 伊藤は尊敬すべき相手であり、ついて行くべき相手であり、だからこそ、こういうことをしないで欲しいと思う。自分が大好きな世界を、そうもたやすく崩さないで欲しいと思う。

「ごはん、食べに行こう?」
 静かな廊下には二人だけ。
 にっこりと笑いかけると、巳代治はようやく力を少し抜いて、ぶーとふくれっつらをする。
(こうして素直な顔の方が、かわいいのにな)

「やだ。やーですめんどくさい」
「何、食べたい?おいしいの、食べに行こう」
 自分のお腹をいつものようにごすごすしはじめた巳代治の手をとって繋いであげると、巳代治はもう片方の手で懲りずに今度は横っ腹からごすごすを開始する。

「どこ行きたい?」
「・・・遠い、とこ」
「え?」
 実は横から例の如く力一杯殴られると、正面とは違って若干ダメージが来るから(人体の不思議なのか、特にそれ以上の疑問は末松は持ってない)末松はやんわりとその手を自分の腕にまわさせて。

「どっか、遠いとこ、行きたいんです。遠くて、静かなとこ。それで、綺麗で、おいしくて」
「それはダメ」
「何で!」
「帰りが、遅くなる。」
 良い子は、早く寝ないとね。

「こーんな徹夜続きのお仕事で、何を今更」
「じゃ、なおさら。送っていってあげるから、ちゃんと寝て、」

 末松は巳代治が好きだ。
 美味しいご飯をいっぱい食べて、温かいお風呂に入って、それで、たっぷり寝て。
 そういう幸せを願ってやまない、そういう、好きだ。

「けんちょなんか大っ嫌い!!」

 そんなことを言いながら全体重を末松の腕にかけて騒ぐ巳代治は、(これはさすがに結構重い)大人しく馬車に乗り込んで、自分の家の近くにある料亭の名前を勝手に告げる。


 大っ嫌いといいながら繋いだ手をいつまでも離さないのはきっと寂しいからだろう。


(寂しい思いも、本当はしてほしくはないんだけど)
(でも寂しさに耐えれるようにも、なって欲しい)
(でないと)

君の幸せ、僕のため




・・・・・・・・・・・・

パパけんちょ。ただのパパ。ただのパパ(笑)
一説によれば(笑)巳代治と唯一仲良くできたのはけんちょだけだったって・・・
けんちょの懐の深さに全私が涙する;m;

けんちょはすごい世渡り上手だよね。
そして無条件で他人を愛せる人だと思う。
でも同時に無条件で自分を愛せる人だと思う。
そうじゃないと・・・無理だろあの伊藤の娘婿とか・・・どんだけできた男だよけんちょやべぇ惚れる。

末ミヨはもう完全反抗期真っ盛りの3歳娘とパパでいいよ。
ミヨがぎゅうぅうううううって首根っこにかじりついてきたら(こいつは絞め殺す勢いでくるだろうな)
ぎゅってしてあげて頭なでなでしてあげておでこにちゅーしてあげてにっこりしてあげるんだよ。PAPA!!

あとどうでも良いけど
けんちょは総攻めだと思いまry^q^


読み物 / 2011.08.11

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