*tknさんちのミヨちゃんよびを勝手に拝借しちゃった☆(おまえ)



赤皮一枚


「こわしさんこわしさんこわしさんこわしさんこわしさんっ」
「なんだ」
 ノックもせずに乗り込んできた巳代治は井上毅が熱心に眺めている分厚い本の上に、ためらいもなくどさっと書類の束を置いた。 
「はい、こないだ言っていた法案ですけど」
「・・・・」
 コワシは文句も言わず顔色一つも変えずにその大量の書類をめくり始める。
 巳代治が横で待っている中すごいスピードで目を通し、最後の一枚を指ではじくと、言った。



「ん、まぁ、いいんじゃないのか、大体」





***


 ソファーに熱いお茶と煎餅で一服していた末松は、背後で開いた扉の音に少しだけ振り返った。
 そこにいたのは伊東巳代治で、それ自体は別に何の問題もない。
 ところが巳代治がずかずかと近づいてきて、末松の横にぼすっと座る。その横顔からご機嫌斜め、どころか最悪であることを理解して、触らぬ巳代治に祟り無し、いやあると思うけど、ととりあえずテーブルの湯飲みに手を伸ばそうとした。
 瞬間、がばっと巳代治が自分のお腹に抱きついてきたので、そのまま停止。困ったように視線を下に向けても、微動だにしない。
 
 末松はしばし逡巡して、湯飲みにのばそうとした手をもう一度のばそうとして、やめて、巳代治の頭をよしよしとなでててやることにした。

 巳代治はそれで少し顔を上げると、テーブルの隅にあった湯飲みを向こう側に押しやる。それから再び姿勢を変えて、今度は末松のお腹をぽこぽこと、より正確にはぼこぼこと、叩いて訴えた。
「聞いてくださいよっ、コワシさんたら、あの野郎人が折角造った法案を如何にもどうでもいいようにっ!」
「ミヨちゃん」
「大体いいって何?はぁ?あの法律バカ馬鹿のくせに巳代と読書どっちが大事なのっ?!」
「ミヨちゃん」
 そのとき扉がばーんと開いたので、末松が一瞬希望を持って振り返ったが、そこにいたのは何故かかごに大量のリンゴを抱えている伊藤だった。
「謙澄と・・・巳代治どうせいるんだろ?みてよこの大量のリンゴ。人からもらったんだけどさー、皆で食べようと思って」
 そういってえっちらおっちらソファーまで歩いてくる。リンゴが重いのだろう、足どりがよろよろとしている。

「それで、何、それはどうしたの」
 ふぅーと大袈裟な吐息を吐きながらテーブルの上にかごを乗せた伊藤は、末松のお腹を指さして聞いた。愛しの閣下のお出ましに、巳代治はしかし末松のお腹に回した手はそのまま、起き上がって伊藤に訴えた。
「閣下~!聞いてください、コワシさん」
「あぁなんだ巳代治か。ねぇみよ、リンゴ食べようよ、むいて」
 はじめからそのつもりで来たのだろう、かごの中からいくつかのりんごと小振りの包丁を取りだした伊藤は、巳代治の訴えを完全に無視してそれを渡した。
 ぶつぶつ愚痴か呪いか何かをつぶやきながら、(中身は聞かない方が身のためだとあえて末松も耳をかさなかった)一応巳代治は起き上がり伊藤にいわれるがままリンゴと包丁を受け取った。
 そして赤いリンゴに刃をあてる。

 そこでぴたりと、部屋の中に静寂。

 しばし、その包丁を眺めて、思案。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ミヨちゃん」
 おそらく何か良くないこと、それもとてつもなく良くないことを思いついたのだろう、二人をして形容する言葉を失わせるような笑みを浮かべた巳代治に、末松が声をかけた。
「閣下少しだけ待っててくださいねすぐに戻りますから」
 しかし巳代治はそんな末松を無視して、伊藤に人畜無害にっこりと微笑みかけた。伊藤の声がひっくり返る。
「み、巳代治、みよ?あの、待つってどこ・・え、謙澄じゃないの?いやいや誰にせよその包丁はおいて行きなさい」
「ミヨちゃん」
 包丁をしっかと握りしめたまま二人に背を向けた巳代治は、そこでくるりと振り返って、先ほど自分がテーブルの向こう側に押しやった湯飲みを取って末松に渡すと、今度こそ何も言わず部屋を出て行ってしまった。 
「みよ、」
 伊藤の言葉と同時に、扉が閉まった。



 結局巳代治が戻るのを大人しく残っていた煎餅を食べて待っていた伊藤と末松は、とりあえず帰ってきた巳代治の手にした包丁に何の痕もついていないのを真っ先に確認した。
「お待たせしました-、あ、コワシさんも連れてきましたよ」
 さっきの不機嫌とは一転、ニコニコとしている巳代治の後ろから、確かにコワシも顔をのぞかせた。若干顔が青ざめひきつっているのが伊藤たちの位置からでも確認できる。

 末松が新しいお茶を入れに席を立ったので、伊藤は巳代治をわざわざ自分の隣に呼び寄せ座らせた。コワシは空いたソファーに大人しく腰掛ける。
 それから伊藤は先ほど包丁をくるんでいた布巾を巳代治に手渡して、巳代治が大人しくそれで包丁を軽くぬぐう。部屋の柱時計だけがこちこちと音を立てた。

 やがて交じる、リンゴの皮をむくシャリシャリというみずみずしい音。

「・・・巳代治」
「やめなよコワシ」
 伊藤が腕を組んで、むかれていくリンゴの皮を眺めながらようやく口を開いたコワシを止めた。
「リンゴが剥けてからにしたほうがいいと思うけどね」



***


 リンゴが十分むき終わり、末松が新しいお茶を全員分入れ終わり、伊藤が巳代治の手から包丁を奪い取って自分の方に置いた段階で、再びコワシが口を開いた。

「さっきの法案だが」
「え、いいって言ったじゃないですか」

 うさぎ型にむいたリンゴをつまんでいた巳代治が至極普段通りの声をあげた。

「大体いい、と言ったんだ。持ってこい、8条が気に入らない」
「なにそれ!だって」
「持ってこい」
「閣下こわしさんが巳代を苛める」
「コワシ」
「本が使い物にならなくなったんで、暇ができたんです。巳代治」

 勝手にしてよ、と伊藤は早くも撤退を決め、せっせと残りのリンゴを食べ始める。ぎゃぁぎゃぁ文句を言いながら巳代治が部屋を出たところで、「後は頼んだ」と末松に言付けて伊藤も消えた。


 ・・・はじめからこうしてあげればいいのに。


 法案を挟んで二人がいつもの臨戦態勢に入ると、末松はコワシの読んでいた本が何の資料だったかをぼんやり考えながら、こちらも避難とばかりに仕事机に戻る。


 テーブルの上にはリンゴの皮だけが残っていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・


ヤンデレ13342。やんでれっていいよね。(しらん)
巳代治と包丁ってもうなんか私の中でデフォになりつつあるんだけどどうしたらいいと思いますか。
でもやっぱみよは伊藤と絡んでこそだと思うわ・・・
今度は32342でなんか書こう。てか便利だな数字^^



思い立ったら、がーって書いた方が残り集中できるのよきっとそうなのよ!

読み物 / 2010.06.25

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