定義2:親友



「ねーねー赤根さん」
「ん?」
「狂介いつ帰ってくるの?」
 そこで赤根は机から顔をあげ、すっかりだらけて向かいに突っ伏している時山を見る。
「さぁねぇ、あの高杉に連行されたんじゃ、いつになることやら」
 すると時山はあからさまにふくれっ面をして、拗ねたように頬杖をつく。
「人に仕事、押しつけといてさ。何、いつ帰ってくるかわかんないって。」
「何か約束でもしてるの」
「べつにー」
「君たちは、ほんとかわいいね」
 赤根が満足そうにつぶやいて自分の仕事に戻る。向こうの方からは稽古中の怒号が地鳴りのように響いてくるが、それも慣れてしまえば単なる・・暴風雨くらいの自然音だ。
「狂介のこと、かわいいなんて思っちゃダメだよ」
 時山がぼんやりと、明らかに暇つぶしのために、つぶやいた。
「狂介は俺のなんだから」
「わかってるよ」
 口癖のような、いつものようなやりとり。
「誰も君の親友を盗ろうなんて思わないさ」
 そう付け足して、赤根としてはこのまま会話が終了するはずだった。


「え?俺と狂介、親友じゃないよ」


 あっさりと、あまりにあっさりと言い切られてしまい、冗談なのか本気なのかわからない。
 ちらりと前方を見やると、時山は相変わらず頬杖ついて目の前の押しつけられた仕事を眺めたまま。
 冗談にしろ何にしろ、このまま黙っていても仕事が減ることはないと判断した赤根は、こちらも休憩とばかりに話に戻った。
「あのねナオくん、それはちょっと・・キョンキョンがかわいそうだと思うな」
「どうして」
「キョンキョンはナオくんのこと親友と思ってるよ、きっと」
「そーなの?そーなのかな」
 少しも悪びれていない時山を、赤根は新発見をしたような気持ちでしばし眺めた。

「じゃぁ、今度教えとく」
「・・あまりキョンキョンの性格をゆがめないであげてね」
「あのね赤根さん」
「うん」
「狂介の親友はね、杉ちゃんだけでいいの」

 "杉ちゃん"のことはそれ以上詳しく話題に出たことはない。
 杉山松介は村塾生で、赤根はそれほど親しく面識があったわけじゃないが、山県の幼なじみであることは知っていたし、時山と三人でつるんでいたところも見たことがある。もちろん池田屋事件に巻き込まれたことも。
 特に池田屋の直前まで杉山と一緒にいた時山は、自分から話を振る割にこの手の「空気」に敏感だ。あの大げんかの末山県もそのあたりの微妙な駆け引きに神経を使っている。
 つまりは二人、ないしは三人の複雑な事情があるので、赤根もそういう面倒くさいことに首を突っ込む気はさらさらない。
 時山がそうというなら、そうと受け止めていればいいだけの話だ。

「うん」
「俺がそう決めたの」
 なぜ君が、という質問は意味がない。だって彼は彼のものなんだから。

「それでね、狂介が俺のこと、友達って思うならそれでもいいよ」
「本当は君のものだけど」
「うん、でも友達いないくせにーとか言われて何にも言い返せないのはちょっとかわいそうだから」
「君が喧嘩の度に言ってることだよね」
「度に何も言い返せてないでしょ?」

 彼らの「友達」の世界は彼らの理屈だけでまわっていて、そこに「外部者」は何人たりとも、おそらく「親友」以外は口を出すことはできない。


「ナオくん」
「何ですか」
「君って・・・・君も、意外に友達いないよね」
 心外だと言わんばかりに時山が驚いた顔をした。
「俺?なんで?狂介と一緒にしないでよ。赤根さん、俺の友達じゃないの?」
「あー・・、うん、そうだよ。そうだよね。でも僕が言いたいのそうじゃなくって・・誰とでも仲良くできるけど、友達っていうの少ないタイプなんだね、君は」
「あ!狂介帰ってきた!!きょーすけーっ!」

 すっかり赤根を無視して窓から身を乗り出して手を振る時山の後ろで、赤根がため息をつく。
 でもそのため息のあと、自分の顔がすこし微笑んでいることに気がついて、自分で自分の気持ちに答えるかのように、つぶやく。
「そうだね、君とか君の"もの"には話が通じなくてイライラすることも多いけど・・その世界を外から眺めるのは悪くないね」

 未知の"異国"を毛嫌いすると同時に憧憬を抱く矛盾に似た、緩やかな束の間の日常。


・・・・・・・・・・・・・・・・・

要は赤根さんは"未知"に興味を抱いてしまう人間だということ(そうだったんだ?!)
あ、でも一応メインは「親友の定義」ってことで。
結構時山は赤根さんのこと好きだといい。
んで赤根さんも時ガタ推奨派だといい←
ガタと色々屈折した感じでつるんでいるといいよ!!

らしく語ったけど杉山のところは結構創作(笑)あんまり信じないでね!
「あの大げんか」ってのは時山が京都から帰ってきて奇兵隊に入ろうとしたときにガタと大げんかしたらしい・・・
とかいうおぼろげな情報の記憶・・・。間違ってたらごめん。多分ガタが悪かった気がする。そういう記憶の感覚が残ってる。


・・・あ!一番の見せ場は赤根さんの「キョンキョン」呼び!!(お前・・)


読み物 / 2009.05.05

▲Topへ