息抜き




「少し、休んだらどうだ」
 無言で部屋に入ってきて、しばらくしてからぽつりと山県がぶっきらぼうに呟いた。
「ここ数日詰めているだろう」
「うんそうだね、けどもう少しで一区切りするから」
「せめて息抜きくらいしろ」
「うーん、息抜き・・・ね」
 そこで赤根はのびをしながら振り返り、その辺に積み重なっている仕事の処理を始めた山県を少し観察する。
「そう人にいう割にキョンキョン・・今日はまたいつもより・・」
「あーかーねーさんっ」
 今度はがらっと勢いよく戸が開いて、時山が顔を出した。とっさにそちらの方に顔を向けたから、赤根には同時に山県の肩がぴくりと動くのを見ることができなかった。
「ナオ君」
「お疲れ様っ、これ藩庁からの手紙ね」
「あぁありがとう」
 時山はそう言いながら戸に近い山県をまるでいないかのように素通りし、赤根の側にちょこんと座った。
 普通の人間ならば別に気に留めるようなことではないが、おやと赤根は思う。
 そこでさりげなく仕事を確認するふりをしながら、時山の顔をちらりと見た。
「-あ、そうだ、ナオ君用事を頼んでもいい」
「どうぞどうぞ、むしろ赤根さんはもうちょっと俺たちを頼ってくれてもいいと思うけどな」
「相変わらずうまいね、じゃぁ、行ってきて欲しいところがあるんだけど。
 キョンキョンとー」
「やだ」
 にこりとした笑顔はそのままで、どきっぱりとした返事。
 わかりやすくて何よりだ、と赤根は思わず笑いそうになる口元を必死に引き締めた。
「・・それは、困ったな、どうしてもダメ?」
 上目遣いにそう言うと、今度は時山が素直に困った顔をした。
「う・・や、どうしてもって訳じゃないけど、ほ、ほら三好ちゃんとか片野ちゃんとかもいるし」
「なんなら福田さんとか」
「おい」
 一生懸命赤根を説得しようとする時山の声を遮って、山県がいらいらと口を挟んだ。
「だだをこねるな、赤根が困るだろう」
 とたんに戦闘モードに入った時山が顔を険しくして山県に向き直った。
「俺は饅頭や女の好みから隊の方針から人生の考え方までいちいち違う誰かさんと一緒なんて身が持たないんだけど」
「私情と仕事を混同するな、ガキか」
「何を~」
(あぁ相も変わらずくだらない・・・)
 赤根は時山が持ってきた手紙を口元にそえ、低レベルな口ゲンカを次第に加熱させていく二人を見守る。



「辰之介のばかっ、もう絶交してやるっ!」
 しばらく言い合いを続けた結果、時山が半立ちになって山県にそう宣言した。
「二度と顔見せるな!」
 びしっと指さされた山県は少しの間黙って時山を見つめていたが、ふんっと顔をそらして
「じゃぁさっさと奇兵隊なんてやめてしまえ」
と言い切った。
「お前がどっかいけよ!」
「何でお前の言うことを俺が聞いてやらなきゃいけないんだ」
「この陰険がっ」
「・・・・」
「だから俺無視されんのが一番むかつくって言ってるのに!!」
 ぎゃぁぎゃぁと騒ぎ立てる二人(山県はむっつり押し黙っているが火に油を注いでいる確信犯に代わりはないので、ようは二人だ)に気づいたのだろう、三度び戸ががらりと開いて、束の間部屋の状況を分析する男が一人。
「相変わらず」
 福田はしかし部屋の奥で大人しくしている赤根に視線をやり、ため息をついた。
「曲がった息抜きだなぁ赤根」
 そう言われた赤根はようやくくすくすと笑いだし、手紙を開き始めた。
「さぁ仕事仕事」

 いい年にもなって絶交って。しかもがーんって。

「よしよし、ほら山県、拗ねるな、こっち来い。時山もそこに座れ」
 二人の後始末は福田に押しつけておいて、一言。

「もう・・・かわいいんだから」


 山県はそんな小さなつぶやきを、聞いたとか聞かなかったとか。



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初登場な福田さん。山県と一緒に軍監・・ですよね?(そんな自信のない)
大人だぜ。
そしてじわじわと恨みがつもっていく赤根と山県(笑)
時ガタは仲良しもいいけどケンカしまくってるのもいいと思う。
赤根さん保母さんポジションで。福田さんはもうお父さんで。
赤根さんとガタの微妙な関係ももっとちゃんと調べたい。
いやきっと少なくとも7割ほどはガタの陰険と信じてるよ(きらーん)


読み物 / 2010.01.08

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