突然一陣の風が舞いおこり、木戸は風船のように向こう側にあっけなく飛ばされてしまった。

「うわぁああ聞多っ」
「お、おいどこ行くんだ?」
「どこってどこぐふっ」
 小さい身体に突風は応える。息ができなくなり声も出せなくなると、木戸は空中でくるくると周りながらどんどん洋風の建物ー鹿鳴館ーから遠ざけられた。
 ようやく風が収まった頃には夜会の灯りは遠くに見え、ずいぶん地面にも近づいたようであった。
 そうして耳に届いてくるのは水の音。

 はっと気づいておそるおそる下をのぞいてみると・・・。





「な、なんでいきなり川がっ」

 それも割と流れの激しい川である。この大きさで落ちれば間違いなく溺れ死んでしまう。
「も、もんた~~」
 無駄とわかりつつ先ほどの鹿鳴館の主を呼ぶも、近づいてくる水の轟音に飲まれるのみ。
 どうにかして岸に近づかなくては・・と焦る木戸の目に、川岸に生える木の枝に引っかかっている空瓶が飛び込んできた。距離もそう遠くない。
「よ、よし」
 手足をばたばたと動かして何とかその空瓶の真上に落ちた木戸は、冷たい水しぶきを浴びながらも瓶の中に入り込むことができた。
 とりあえず溺れ死ぬ心配のなくなった木戸がほっとしたのも束の間、木戸が入り込んだ衝撃によってか瓶はぐらぐらと傾き、微妙な力加減で止まっていた枝の間をするりと抜け、ますます激しく波打ってくる濁流の中に流れ出してしまったのだ。


 ごうごうとくぐもって聞こえてくる水の音、今にもひっくり返りそうなふたなしの瓶、容赦なく入り込んでくる水。

 あぁさすがにこれはもうダメだ。こんなところで・・・。

 木戸はあっちこっち狭い瓶の中で振り回され水浸しになりながら、意識が遠のいた。



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